英語習得に必要な時間は2,200時間。日本の学校で使う時間は507.5時間しかない
「英語は何時間やれば話せるようになるのか」という問いには、出典のある答えがある。 米国務省が自前の外交官訓練の実績として公開している数字だ。 そしてもう一方の数字、日本の学校が英語に充てる時間は、法令に単位時間まで書いてある。 この二つを同じ単位に揃えて並べると、日本人が感じている「6年やったのに話せない」が、 感覚ではなく算数の問題として見えてくる。
英語の習得に必要な時間は何時間か(米国務省FSIの公式データ)
米国務省の外交官養成機関である外務職員局(FSI)は、76年分の語学訓練の実績として、 言語ごとに「一般職業上の熟達度」(ILRスケールのSpeaking-3/Reading-3)に達するまでの 標準的な期間を公開している。日本語はそこで最上位の「カテゴリーIV(超difficult、 英語話者にとって例外的に難しい言語)」に分類され、88週、2,200授業時間が見込まれている。 同じ表でスペイン語とフランス語は30週(600時間から750時間)、ドイツ語は約36週(900時間)、 ロシア語やヘブライ語、トルコ語、ベトナム語は約44週(1,100時間)だ。
先に注意点を一つ。FSIが訓練しているのは英語を母語とするアメリカの外交官であり、 この表は「日本人が英語を学ぶのに何時間かかるか」を測ったものではない。 ただし言語間の距離は方向によって大きくは変わらないと考えられており、 しかもFSIの受講生は少人数クラスで専任教師がつき、教材も時間も潤沢という、 一般的な学習者よりはるかに有利な条件で訓練を受けている。 つまり2,200時間は、日本語話者が英語で同じ水準に届くための時間の下限に近い目安として読むのが妥当だ。
FSIの言語カテゴリーと必要授業時間
| 区分 | 授業時間 | 週数 | 言語の例 |
|---|---|---|---|
| カテゴリー I | 600〜750時間 | 24〜30週 | スペイン語、フランス語、イタリア語、オランダ語、ポルトガル語 |
| カテゴリー II | 約900時間 | 約36週 | ドイツ語、インドネシア語、スワヒリ語 |
| カテゴリー III | 約1,100時間 | 約44週 | ロシア語、ヘブライ語、トルコ語、ベトナム語、タイ語、ヒンディー語 |
| カテゴリー IV | 2,200時間 | 88週 | 日本語、韓国語、中国語、アラビア語 |
日本の学校で英語に使う時間は何時間か(文部科学省の標準授業時数)
こちらは推計ではなく法令の数字だ。文部科学省のQ&Aは、小学3年・4年の外国語活動を 「年間35単位時間、週当たり1単位時間」、小学5年・6年の外国語科を 「年間70単位時間、週当たり2単位時間」と明記している。中学校は学校教育法施行規則 別表第二が外国語を第1学年140、第2学年140、第3学年140単位時間と定めている。 足し上げると、小学3年から中学3年までの英語は630単位時間になる。
ただし「単位時間」は1時間ではない。同じ法令の備考に、小学校の1単位時間は45分、 中学校は50分と書かれている。実時間に直すと、小学校の210単位時間は157.5時間、 中学校の420単位時間は350時間で、合計は507.5時間。 FSIが日本語と英語の間に見込む2,200時間の23%にあたる。 言い換えると、日本の義務教育9年間で英語に使う時間の合計は、 FSIが最も英語に近い言語であるスペイン語に割り当てる600時間にすら届いていない。
小3から中3までの英語の授業時間
| 学年 | 単位時間 | 1単位時間 | 実時間 |
|---|---|---|---|
| 小学3年・4年(外国語活動) | 35 x 2 = 70 | 45分 | 52.5時間 |
| 小学5年・6年(外国語科) | 70 x 2 = 140 | 45分 | 105時間 |
| 中学1年・2年・3年(外国語) | 140 x 3 = 420 | 50分 | 350時間 |
| 小3から中3までの合計 | 630 | 507.5時間 |
高校を足せばよいのでは、と思うところだが、高校は事情が違う。 文部科学省は高等学校について「単位制をとっているため教科ごとの授業時数及び総授業時数の 標準は定められていない」としている。1単位は50分授業35回として計算するのが標準なので、 必履修の英語コミュニケーションIが3単位なら105単位時間、実時間で87.5時間という換算にはなるが、 履修する科目数は学校とコースによって大きく変わる。 高校3年間でかなり多く履修したとしても、義務教育分と合わせて1,000時間に届けば多い方で、 2,200時間の半分にも満たない。
足りないのは何時間か
引き算は単純だ。2,200時間から507.5時間を引くと、1,692.5時間が残る。 これが学校の外で埋めなければならない量になる。 1日1時間なら約4年8ヶ月、1日2時間なら約2年4ヶ月、 1日30分なら9年以上かかる計算だ。 「6年間やったのに話せない」という感覚は、この引き算の結果とぴたりと重なる。 6年間やっていないのだ。6年間かけて、必要量の4分の1を受け取っただけである。
この見方の利点は、自分を責めなくてよくなることにある。 才能や適性の問題として語られがちな「日本人は英語が苦手」は、 少なくともその一部は、投入された時間の量で説明できてしまう。 逆に言えば、必要なのは学び方を根本から変えることではなく、 毎日の接触時間をどこから捻出するかという、もっと現実的な設計の問題になる。
必要量と、学校で受け取る量
時間が足りないだけなのか:話す時間はさらに少ない
総量が足りないことは分かった。ではその507.5時間の中身はどうか。 EF EPI 2025で日本のスコアは446点、123カ国・地域中96位、世界平均の488点を下回る。 技能別に見ると、リーディング454点、リスニング437点、ライティング394点、 スピーキング393点で、リーディングとスピーキングの差は61点ある。 受け取る技能と、産み出す技能の間にはっきりした段差がある形だ。
つまり日本の英語学習には二重の不足がある。時間の総量が必要量の23%しかないことと、 その少ない時間の配分が読解と聴解に偏っていることだ。 だから残りの1,692.5時間をどう埋めるかを考えるとき、 単に「勉強時間を増やす」では前半の問題しか解けない。 埋める時間の中身を、これまで最も使ってこなかった技能に寄せる必要がある。
日本の技能別スコア
1,692.5時間をどう埋めるか
数字を出したので、その数字に沿った結論を書く。第一に、期間ではなく累積時間で計画する。 「3ヶ月で話せる」という約束は、1日何時間かを言わない限り意味を持たない。 1日1時間なら3ヶ月は90時間で、必要量の5%にすぎない。 逆に1日1時間を4年半続ければ、FSIの想定に本当に届く。 必要なのは短期の集中ではなく、やめない仕組みの方だ。
第二に、埋める時間の配分を産出側に寄せる。日本のスコアが最も低いのは スピーキングとライティングで、これは学校の507.5時間が最も配分してこなかった技能でもある。 英語で話す相手を毎日確保するのは現実には難しく、そこが多くの人の学習が止まる場所だが、 SpeakBaseはそのために作られている。AI音声チューターのKateと英語で会話し、 詰まったときは日本語で説明を受けられるので、話す時間だけを毎日積み上げられる (アプリの画面表示は英語です)。 自分の英語力の現在地を数字で確かめたい人は、TOEICの平均点と日本人の英語力を一次データでまとめたリサーチも併せて読んでほしい。
よくある質問
英語の習得に必要な時間は何時間ですか?
米国務省の外交官養成機関FSIは、英語話者が日本語で「一般職業上の熟達度」に達するまでに88週、2,200授業時間を見込んでいます。日本語と英語は最も距離が離れた組み合わせ(カテゴリーIV)で、スペイン語やフランス語の600時間から750時間の3倍以上です。FSIは英語話者を訓練する機関なので、この数字は日本人が英語を学ぶ場合の実測値ではありませんが、二言語間の距離を示す公的な数字としては最も信頼できるものです。
日本の学校では英語の授業を何時間受けますか?
文部科学省の標準授業時数では、小学3年・4年が各35単位時間、小学5年・6年が各70単位時間、中学1年から3年が各140単位時間で、小3から中3までの合計は630単位時間です。小学校の1単位時間は45分、中学校は50分と法令で決まっているため、実時間に直すと507.5時間になります。
学校の英語だけでは何時間足りないのですか?
FSIの2,200時間から学校の507.5時間を引くと、1,692.5時間が不足します。1日1時間なら約4年8ヶ月、1日2時間なら約2年4ヶ月に相当する量です。高校の授業や大学受験勉強を加えても、学校教育だけで2,200時間に届くことはまずありません。
3,000時間という説をよく見かけますが、根拠はありますか?
「英語習得には3,000時間」という数字は日本の英語学習サイトで広く引用されていますが、一次資料が示されないことがほとんどです。出典が公開されていて誰でも確認できるのは、本記事が使ったFSIの2,200時間(米国務省が公開している訓練実績)と、文部科学省の標準授業時数です。数字を比べるときは、それが誰の、どの到達目標に対する数字かまで確認する価値があります。
時間を増やせば英語は話せるようになりますか?
時間の総量だけでは足りません。EF EPI 2025の日本のスコアは、リーディング454点に対してスピーキング393点で61点の差があります。読解と聴解に使った時間は蓄積されている一方、口を動かした時間が圧倒的に少ないことを示す形です。不足している1,692.5時間をどの技能に配分するかが、総量と同じくらい重要になります。